こんにちは、築地市場ドットコムのTwitterの中の人です。築地本願寺の「寺と」プロジェクトの取材日記、おかげさまで公開後にTwitterなどで反響を頂けてとても嬉しく思います。今まで気になってはいたけど、まだ行ったことがない…という方が築地本願寺へお出かけするきっかけになってくれれば幸いです。
さて、取材日記の第4回はこの「寺と」プロジェクトの先頭に立ち、様々な取り組みを推し進めている築地本願寺 代表役員 宗務長、安永 雄玄さんのインタビューをお送りします。お寺という既存の枠にとらわれず、新しい取り組みに次々と挑戦されている安永さんに、これまでの築地本願寺&これからの築地本願寺についてお話を伺いました。
まさか50歳でお坊さんになるとは思いませんでした(笑)
中の人:早速ですが、安永さんの経歴をお聞かせ頂けますか?
安永さん:もともとは銀行に22年ほど勤務していました。その後、コンサルティング会社に転職していますので、実はお寺に関する職についたのは最近なんです。
中の人:そうなんですね。勝手なイメージですが、ご実家がお寺だったとか、もともとお寺に縁があるのかと思っていました。
安永さん:私の場合は違いますね。コンサルの仕事をしている傍ら、お寺について勉強しようと通信教育を3年間ほど受けていたんです。
中の人:通信教育!
安永さん:はい、そういうのがあるんですよ。ただ、私の場合は僧侶になりたくて…とかではなく、あくまでも勉強するために通信教育を受けていたのですが、結局は僧侶になりました。50歳の頃です。
中の人:人生、何があるかわからないものですね(笑)。
安永さん:そうですね(笑)。通信教育を終えたあと僧侶となって、知り合いの方とのご縁もあって、最初は三田にあるお寺の副住職になりました。3年ほどでしょうか、副住職として週末に法事などを勤めていました。
中の人:そのままそのお寺を継ぐ、というお話はなかったのですか?
安永さん:その知り合いの方のご実家がお寺だったのですが、結局は跡を継ぐという事で戻られました。ですが、普段はコンサルの仕事をしているのになんで週末は僧侶をやってるんだ、という事で私に興味を持って下さった方がいた訳です。で、懇談会のような集まりにも呼ばれるようになりまして。
中の人:副住職のお仕事から離れたあとも、お寺にご縁があったのですね。
安永さん:あちこちの懇談会に参加するうち、2012年の改革を迎えました。正式名称が、それまでの「本願寺築地別院」から「築地本願寺」と改められ、私も有識者メンバーの一員として運営にも少しずつ携わるようになったんです。
中の人:勉強不足で大変恐縮なのですが、「本願寺築地別院」から「築地本願寺」へ改められたことはそんなに重要なのでしょうか?なんとなく、名称が変更されただけなんじゃないの?というイメージなんですが…。
安永さん:一般の方にわかりやすく例えると、支店から子会社になったような感じと思って頂ければ。
中の人:その例えはすごくわかりやすいです!さすが、元ビジネスマンですね(笑)。
安永さん:そうですね。お寺、というと構えてしまうかも知れませんが、私自身は一般的な会社や仕事と通じるところがあると感じています。ビジネスマン出身だからなのかも知れませんが…。
という訳で、普段の仕事と同じ感覚であれこれ意見を出したり提案をしていたところ、「だったら自分でやりなさいよ」と言われてしまいまして(笑)。それが3年くらい前ですね。
中の人:で、今に至ると。
お寺をもっともっと知って欲しい
様々な職を経験されたあと、安永さんは築地本願寺の宗務長となり「寺と」プロジェクトを立ち上げます。すでに皆さんもご存知の通り、メディアにも多く取り上げられたこのプロジェクトのきっかけは?
中の人:「開かれたお寺」がコンセプトとなっていますが、「寺と」プロジェクトを立ち上げたきっかけなどあれば教えて下さい。
安永さん:お寺って普段行かれますか?
中の人:お寺ですか。言われてみれば、用事がないと行かないかも知れません。築地本願寺は職場のすぐそば、という事もあって普段からたまに来ていますが、一般の方からすると「入ってもいいのかな?」と思ってしまうかも。
安永さん:そうなんです。お寺ってなんとなく入りにくいというか、入ってもいいの?って思っている方が多いんじゃないかな~、と思うんですよね。入ってもいいんです!(笑)
中の人:私は地方の出身なのですが、築地本願寺の存在を知ったのはX JAPANのhideさんが亡くなられた時のニュース映像がきっかけです。東京にある有名なお寺なんだな、という印象。なんというか、著名人の方しか利用されないのかな?みたいな…。
安永さん:実は全くそんな事はなくて、一般の方でも普通に利用して頂けます。でも、それをご存知ない方が結構多いんだな、と。だったら知って貰おうじゃないか、と立ち上げたのがこの「寺と」プロジェクトなんです。
フラリと気軽に築地本願寺に立ち寄ってもらう為に、敷地内に新たにインフォメーションセンターを建設。
すでに取材日記でもご紹介した通り、ブックセンターやカフェ 、オフィシャルショップなどが入っており、お寺そのものに用事がなくともついつい訪れてしまいたくなる。
中の人:カフェなどがオープンした当時、テレビやネットでかなり話題となりましたよね。
安永さん:おかげさまで、沢山のメディアに取り上げて頂きました。でも、まだまだカフェなどがある事をご存知ない方もいると思いますし、知っていても実際に足を運ぶには至ってない方も多いと思います。
カフェなどをご利用頂けたら、ぜひ本堂にご参拝頂きたいですし、その逆でお寺に用事があったついでにカフェを利用する、でもいいですし。とにかく、何かきっかけになってくれると嬉しいですね。
中の人:そう言えば、先ほど敷地内を少し見学させて頂きましたが、「えっ、ここ入ってもいいんだ!」っていう場所がいくつかありました。割と、築地本願寺には来ているほうだと思ってたのですがまだまだ知らない事がいっぱいあります。
安永さん:よく聞かれるのですが、築地本願寺の中(本堂の中)は入れます。パイプオルガンによるランチタイムコンサートも開催していますし、結婚式などでもご利用頂けるんですよ。お寺はいつも開かれていますので、遠慮せずにお気軽にお立ち寄りください。
こんなお寺があったらいいな、を実現させてみた
「寺と」プロジェクトがメディアに取り上げられた際、ブックセンターやカフェなどのお寺っぽくない施設に注目が集まりましたが、合同墓や「人生サポート」など、築地本願寺が提供するサービスそのものも話題となりました。
安永さん:お寺って昔は学校や病院みたいな「人が集まる場所」の役割も果たしていたんですよね。お寺を知って欲しい、お寺に来て欲しいと言うからには何かそういう仕組みを作らなければな、と。お寺も時代のニーズに合わせたサービスを提供していかなければならない時代だと思うのです。もう、待ってるだけではダメなんですよね。
中の人:新しくサービスを開始された「人生サポート」では、葬儀の相談だけではなく遺品の整理や遺言状作成など、仏事や終活に関するあらゆる事について相談できるんですね。
安永さん:ある日、84歳の友人が私を訪ねて来たんです。そろそろ終活をはじめようと思うのだけど、葬式、墓、相続などどうすればいいのかと。
この人生サポートは、あくまでも専門家をご紹介するだけなのですが…でも、困った時にとりあえず「ここに相談すれば大丈夫!」という窓口があったら便利かな、と思いまして。
中の人:確かに、あちこち相談するよりも便利だと思います。
街中にある近くのお墓
故人の供養(※浄土真宗では「供養」といいません。)と言えばお墓参りが思い浮かびますが、ライフスタイルの変化により最近では「墓じまい」が増えています。お墓の管理が大変、なかなか故郷に戻る事が出来ない、など心当たりのある方も多いのではないでしょうか?
お墓に対する価値観にも変化が現れており、新しい選択肢のひとつに「合同墓」というものがあります。
中の人:築地本願寺の合同墓について紹介しているニュース番組をたまたま見た事があります。合同墓について詳しく知りたいと思っている方って実は結構いるんじゃないかな~と思うのですが。
安永さん:テレビの影響は大きく、放送後は説明会のお申込み数がとても増えました。おかげさまで常に1~2か月ほど先まで満席の状態ですね。そして、説明会に参加された方のおよそ8~9割の方が申込みをされてます。
中の人:え、そんなにですか?
安永さん:はい。生きているうちに安心を求めたい、というお気持ちがあるのではないでしょうか?
築地本願寺合同墓は境内(赤い矢印で指しているこじんまりとした建物)にあります。
インタビュー後、広報の方に案内して頂き中も見学してきました。外から見る分にはわからないほどスタイリッシュな建物です。
中の人:具体的にはどういう方が合同墓の説明会に参加されますか?
安永さん:やはり終活を考えはじめる60歳以降の方が多いですね。とりわけ、女性の方が多いように感じます。
中の人:さきほど説明会に参加された大半の方が申込みをされるとお聞きしましたが、率直に「意外と多いんだな」と感じました。特に都会で生活されている方なんかは、お墓の悩みを早目に解決したいと思っているのかも知れないですね。
安永さん:家族全員、申込み頂くケースも珍しくありません。みんな一緒の場所だと安心なんでしょう。過去の宗教や宗派に関わらずご利用頂けますし、築地はいつでもお参りに行けるからという理由でこちらの合同墓を選択される方も多いです。時代のニーズに合わせた、新しいお墓参りの文化だと思いますね。
この芝生の下にもお骨が収蔵されているのですが、参拝客が入る事ができない(=足で踏みつけるのは失礼にあたるため)ような配慮がされています。個別にお骨袋が用意されますので他の方と混ざる事はありません。
合同墓の中の様子はこちら。一年を通していつでもお参り頂けます(※開門している9時~17時のみ)。ちょうど案内をして頂いている間にも、お参りにいらした方々と遭遇しましたが、みなさんとても気軽な感じでいらしてました。お花は築地本願寺が日々お供えしていますので、手ぶらで来ても大丈夫なんです。
合同墓を求めたはいいが、自分自身が死んだあとはどうすればいいの?という方は「人生サポート」サービスを利用できます。何から何まで至れり尽くせり。ワンストップで安心とサービスを提供してくださるんです。
安永さん:「寺と」プロジェクトの効果は十分あったな、と手ごたえを感じています。参拝客の数がプロジェクトを始動させる前に比べておよそ1.5~1.8倍に増えました。
中の人:この半年(※取材当時)の間だけでもかなり効果があったんですね。すでに大成功を収めているように感じますが、このプロジェクトや安永さんの思いとして、最終的にはこうしたいという目標はあるんでしょうか?
ひとりひとりの人生を見守っていきたい
安永さん:お寺というと葬儀イコール人が亡くなった時しか用事がないというイメージがあるかも知れませんが、そうではなく1人1人の人生を生まれた時から死ぬ時までずっと見守っていきたいと思っています。それが最終目標ですね。
その間には、成人式だったり冠婚葬祭も色々ある訳です。そういう人生の節目に築地本願寺の存在を思い出して頂ければいいな、と。
中の人:以前、別の媒体で安永さんのインタビューを拝見した事がありますが、バーチャルなお寺を目指しているんだとか。
安永さん:あ、そうですそうです。例えばですけど、築地本願寺オリジナルのICカードを持っている方は参拝の度に「ピッ!」とかざせばその方のデータがどんどん蓄積されていって面白いな~、とか(笑)。参拝回数だったり、カフェなどの施設利用回数だったり。そのICカードの保有するデータにアクセスすれば全てがわかるということもできたらいいと思っています。
中の人:えー、なんか斬新ですね。
安永さん:でもICカード自体は別に珍しくないですよね?
中の人:言われてみるとそうですよねえ。なんでお寺は導入しないんだろう?
安永さん:本来のお寺の在り方も考慮しつつ色々と進めて行かなくてはいけないので、やりたい事はまだまだ沢山あるのですが一度には出来ないのが現状です。でもまあ、お寺らしく(笑)焦らずに長い目でプロジェクトを進めて行きたいと思っています。
中の人:築地本願寺のICカードが誕生したら中の人もぜひ持ちたいと思います(笑)。本日はお忙しい中、貴重なお話を聞かせて頂きありがとうございました!
合同墓の中からは、こんな風に本堂がチラリと見えました。お参りをすると、自然と本堂を正面に見る事が出来るように設計されています。
これまでのお寺の常識では考えられないような斬新なアイディアが安永さんのお話からは次々と飛び出て来ました。築地という地域コミュニティーの中心的存在として、築地の「まち」との関係も大切にされています。築地本願寺では例年、8月上旬に盆踊り大会が開催されますが約70,000人が訪れる大きなイベントとして知られています。築地界隈の飲食店が境内に出店し、築地の関係者が一丸となって盛り上げよう、という事なんですね。
築地本願寺の「寺と」プロジェクトは続きます。次はどんなアイディアが実現されるのか、まだまだ目が離せません。
築地本願寺
【住所】東京都中央区築地3-15-1
【参拝時間】4月~9月 6:00~17:30 / 10月~3月 6:00~17:00
【公式HP】http://tsukijihongwanji.jp
※2018年4月下旬に訪問しました