
こんにちは。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
土瓶蒸しに炊き込みご飯…と、きのこがおいしい季節がやってきました。
今回ご紹介するのは、石川県の白山のふもとで育てられている、なめこ。
このなめこが今、一流料理人たちの熱い視線を集めているんです。

「うわぁ、でけぇ!」その大きさに思わずお下品な声を上げてしまいました。金沢市にある焼鳥の名店「蛤坂まえかわ」での出来事。ご主人がドヤ顔で見せてくれたのは、こぶし大、もう1回言います。こぶし大!のなめこでした。その名も「でけえなめこ」。
それまでもこの「でけえなめこ」と呼ばれるなめこは、直売所や飲食店で目にしていましたし、味わってきました。でもそれは、10円玉大の笠のもの。まぁ、それでもじゅうぶん“でけえ”のですが、こんなに“でけえ”のは初めてです。

食いしん坊のおじさん・おばさんたちが「でけえ、でけえ」と大騒ぎしているカウンターの隅で、不敵に笑う若者が1名。聞けば、この若者がでけえなめこを作っているというではありませんか。
前古琉衣斗(ぜんこるいと)さん、御年19歳。白山のふもとにある里山総合会社・山立会(やまだちかい)で、なめこを育てている生産者さんです。なんでも、小学生のときに山立会が開催しているなめこの収穫体験に行って以来、なめこに魅せられ、「なめこを自分で育てたい」と就職。念願叶い、入社当初から毎日なめこと向き合う、なめこ愛あふれる青年です。

「こんなに大きなものは超レアなんです。だから、直売所やお店に並べることはなくて。こうやっておいしく料理してくれる人に直接届けています」と、前古さんは言います。そういえば、ミシュランで星を獲得した日本料理店や、予約の取れないイタリアン、最近地元で噂の高級居酒屋など、金沢や近郊のちょいといい飲食店で見かけることが多くなりました。ここ、蛤坂まえかわのご主人も、「やっと仕入れることができた」と感慨深げ。ただ、なめこの命というべき“ぬめり”とシャキシャキした食感を残して焼き上げるのは至難の業だそうです。炭焼き名人、まえかわのご主人が焼いた超レアものの「でけえなめこ」を一口食べた前古さん、とても満足そうでした。

前古さんは、なめこのことを「この子たち」と呼びます。機械で作れるものではなく、ほとんどの作業を人の手で、時間を掛けて育てているとのこと。収穫は、目で見て、手で感じて、「よし」と思えるものだけを選んでいるそうです。時間もかかるし、人手もかかる。いまどきの“タイパ”とは逆行する育て方ですが、「この大きななめこが好きで、作っています」と。

この「でけえなめこ」は、山立会が育てている「木滑(きなめり)なめこ」のうち、一番大きなものの名前です。大きい順に、次が「ちょこでけえなめこ」、その次が「なめたろう」、その次は「ふつうのこ」。この「ふつうのこ」は、さらに大きさでT・S・M・Lと4段階に分けられています。ネーミングにも、なめこ愛があふれているではありませんか。

里山総合会社・山立会の始まりは、2017年。ツキノワグマの研究者だった代表の有本勲さんが、「里山の価値を創出し市場に届け、多角的な事業に取組むことで、里山の総合的な課題解決に貢献しよう」と、創業しました。
もともとなめこは、山間に暮らす人たちが、自生したものを採って煮物や汁物にしたり、年に一度の報恩講の膳にのぼる貴重な食材にしたりと、里山で食べ継がれてきたもの。その食文化を守ろうと、地域の人たちが「木滑なめこ生産組合」を結成し、なめこ栽培を始めたのは、1972年のことでした。50年近く続いてきたなめこの生産が、高齢化で継続が危ぶまれたときに「こんなおいしいなめこが絶えてしまうなんてもったいない!」と、山立会が名乗りをあげ、木滑なめこの栽培を引き継いだのです。

山立会は、木滑なめこの栽培・加工・販売のほか、害獣として駆除された猪や鹿、熊肉などの加工や販売、耕作放棄地の問題解決に向けて羊の放牧と肉の販売、そしてそれらの食材をおいしく食べられる食堂の経営を通して、白山のふもとの活性化に取り組んでいます。なめこを食べることで、里山の活性化に少しでも貢献できるなら…いえ、そんな高尚な理由なしでも、おいしいから食べたくなる石川県の特産品・木滑なめこをご紹介しました。書いているうちに今夜のおかずにしたくなったので、直売所に買いに行くことにします。
里山総合会社 山立会HP

