食味、世界一。高いけど一度は食べたい、天栄米(てんえいまい)ってどんなお米?

日本で唯一、9年連続「金賞」を受賞した天栄米


全国各地で毎年のように新しい品種やブランドのお米が登場していますが、そんな数あるお米の中で米・食味分析鑑定コンクールにおいてなんと9年連続「金賞」を受賞している天栄米(てんえいまい)というお米をご存知でしょうか?
米・食味分析鑑定コンクールとは、米・食味鑑定士協会が主催するお米のコンクールの事。米の品評会は大きく2つあります。1つは、日本穀物検定協会が行う「地域の品種」ごとに行われる検定(米の食味ランキング)。「特A」「A」などで評価されるのがこちらで、地域の「平均点」の高さを競う検定なのです。そしてもう1つがこの米・食味分析鑑定コンクール。こちらは「個人(団体)」で競います。
前者の日本穀物検定は環境と品種が上位ランクの要素になるのですが、後者の米・食味分析鑑定コンクールは団体や個人の生産の腕が試されるのです。


米・食味分析鑑定コンクールは2000年に372人の出品で第1回大会がスタートしました。第5回では1,000人を超え、10年後の第11回では2,888人、そして直近の2016年の第18回ではなんと5,671人ものエントリーが。米農家がこのコンクールをいかに楽しみにしているのかがよく分かる数字です。今では日本だけでなく海外からの出品もあるそうで、文字通りお米の国際大会となっています。
そんなコンクールにおいて、9年連続で金賞を受賞している天栄米を栽培しているのは、福島県の天栄米栽培研究会。その人数はおよそ30名前後。このメンバーで9年連続、最高賞を受賞しています。ちなみに5年連続で金賞を受賞している団体にはゴールドプラミアムライスAAA(トリプルA)という称号が与えられますが、AAAの称号を持つのはたった3つの地域のみ。群馬県の川場村、長野県の木島平村、そして福島県天栄村の天栄米栽培研究会なんです。

 

世界一のお米をつくる天栄村へ行って来ました


そんなにスゴイ天栄米、一体どんな風に作られているんだろう?と気になった私達は、10月某日、天栄米を作っている福島県の天栄村を訪れました。東京駅から東北新幹線でおよそ80分、JR新白河駅で下車。ここから更に車で約30分ほど走ると、いかにも里山という風景が現れます。ここが、天栄村です。田んぼへは、天栄米栽培研究会の斑目義雄 会長が案内してくれました。
最近ではふくしまプライドのCMなどでご存知の方も多いと思いますが、福島県は美味しいお米の産地なんです。福島県は海側から、浜通り・中通り・会津という3つの地方から成り立っていますが、それぞれ各地方で米作りが盛んに行われているのです(天栄村は中通りの南部)。村の中央部にある天栄山に由来している天栄村は、昭和30年に湯本村・牧本村・大里村・広戸村の4つの村が合併し誕生しました。

 


村の特産品としてヤーコンやりんご、ねぎなどの野菜や果物も知られていますが、米・食味分析鑑定コンクールで天栄米が金賞を受賞してからはお米の名産地としての知名度がグッと上がったんだそう。ですが、天栄米が金賞を受賞するまでには大変な苦労や努力がありました。米づくりは昔から続いていましたが、過疎化に伴い村の人口が減っていく中「なんとか村を盛り上げたい!」と村人達が一念発起!平成19年に天栄米栽培研究会を設立し、そこに所属する生産者達が天栄米というブランド米を世に送り出すようになります。
天栄米は肥料などは全て同じものを使い、生産する米の均一化を図り、良質な米の中から選りすぐった米だけにつけられるブランド名なのです。


天栄村ではもともと米の食味よりも、収量を重視する考え方が中心でした。その為、県内でも「天栄村のお米が美味しい」という評価は全くなかったんだそう。天栄米栽培研究会の設立を機に、生産者同士が積極的に情報交換をしたり、技術の教え合いなどをして、美味しいお米づくりに力を注いできました。天栄米には3種類あります。漢方栽培、特別栽培、有機栽培です。その栽培方法は以下の通り。

「漢方栽培」とは・・
漢方薬の煎じ滓を完熟肥料として使用しています。通常の栽培の5倍近い金額の肥料代がかかります。そして、収量は、通常の半分程度です。
「特別栽培」とは・・
農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に従い,化学肥料、農薬を慣行栽培の半分以下にすることで栽培される方法で栽培された米で「特栽米」とも言います。村内では120haが栽培されています。
「有機栽培」とは・・
JAS法が出来てから、「JAS有機」認証を受けた栽培法で作られたものを、こう呼びます。一定の農場で3年間以上、農薬や化学肥料を全く使わずに栽培したもの、さらに、その生産から最終包装に至るまで、有機性が侵されることのないよう厳しく第三者認定機関(国内67機関)の検査されたものに限り、JASのマークとともに有機又はオーガニックの表示が認められることになりました。天栄村では、3名の農家さんが現在1haほどの面積を行い取り組んでいます。
いずれの農法においても、「土作り」に徹底してこだわり、良質な有機質をいれ生物多様性を育む「生物のゆりかご」となるよう、つとめています。天栄村の田んぼは、田植えの前に水を張った途端に、カエルが大合唱を始めます。タニシやミズスマシをはじめ、ホタルやトンボがいっぱいです。

 

天栄村元気プロジェクトより引用(http://www.f.waseda.jp/kanaike/ten-ei/2015/Q&A.html

10月に訪れた天栄村の田んぼには、黄金の稲穂が沢山風に吹かれていました。良質な肥料を使い、栽培方法にもこだわらないとこんなに綺麗な黄金の稲穂なんて見る事が出来ません。

 

天栄米を支える、涌井の清水と釈迦堂川


「世界一のお米、天栄米は天栄村でしか作る事が出来ないんです。」
そう言いながら、会長が田んぼのあとに連れて行ってくれた場所はとても神秘的な空間でした。
天栄村に注がれる水の中心となる川は釈迦堂川。その、釈迦堂川の源泉となる湧水の1つに涌井の清水があります。


その水は美しく透き通り、水底から途切れることなく湧き上がる様はとても神秘的…。美味しいお米にはやはり、美味しいお水が必要なのだと改めて実感しました。

 

天栄米は高い!でも、それに見合う美味しさを秘めている


取材当日に見せて貰った黄金の稲穂の写真がこちら。稲の大きさがまるで違います。天栄米の稲の背は低く1つの穂の実の数も違うのです。「じっくり育てる事で旨みが増す」と、斑目会長は言います。天栄米は他のブランド米と比べるとハッキリ言って高いです。でも、その価値は十分あると私は天栄村を訪れて感じました。それはコンクールで金賞を受賞したからではありません。天栄米は除草剤を使わないので、草刈をする必要が出て来ます。漢方栽培では通常のおよそ5倍ほどの金額の漢方肥料を使います。それだけの手間や時間、お金をかけてじっくりと育てても収量はこれまでの半分なんだとか…。お値段だけを聞くと「高い」と思ってしまいますが、生産者さんの苦労を思うとこれは天栄米に見合ったきちんとした対価なのではないかな、と思うのです。

 


コンクールで金賞を受賞し、少しずつ知名度があがってきた天栄米ですが2013年には東日本大震災における原発事故後の風評被害にも悩まされました。この年には売り上げが例年の半分以下にまで落ち込んでしまったんだそうです。そこで、天栄米栽培研究会のメンバー達は放射能による土壌汚染の測定を行ったり、首都圏でのPR活動を行うほか、ドキュメンタリー映画「天に栄える村」の制作&上映を通じて、天栄村や天栄米の風評払拭に取り組みました。

 

天栄米栽培研究会長・岡部政行氏に聞く 安全性訴え活動(福島民友ニュース)
天に栄える村(公式サイト)

 

天栄米を購入できる場所は天栄村付近の3箇所のみ


知名度が県内でもグッとあがった天栄米ですが、実は購入できる場所は天栄村付近のたった3箇所のみ。道の駅「羽鳥湖高原」と「季の里天栄」、そして郡山にあるうすい百貨店だけなんです。「天栄村に是非来て欲しい」という思いから販売場所を天栄村付近に限定しているのです。以前は都内の有名百貨店でもお取扱いがあったそうですが、震災の影響でそれもなくなってしまいました。インターネット通販でも購入は出来ますが、お取扱い出来る店舗が限られているとても貴重なお米なんですね。
…ですが!この天栄村では天栄米を気軽に食べる事ができます。取材後に訪れた道の駅でのランチタイム。定食のお米はすべて天栄米、しかもお値段も1000円しないくらいと安い!また、店頭では天栄米がフルラインナップで販売されているので、お土産として購入する事も可能です。


粒がしっかりと立っているのに決して硬くはなく、柔らかさがあります。なによりも、お米の甘みが強い。カレーの濃いスパイスの味に負けていません!同僚はフライと一緒に食べていましたが、それでも天栄米そのものの味はちゃんとわかったそうです。揚げ物コッテリにも負けないお米、スゴイぞ!


日本人にとって美味しい米とは何か?それは一言では語れません。
ですが、日本中の腕利き生産者が集まるコンクールにおいて、一番評価されてるお米だという事実は天栄米の絶対的な美味しさを保証出来ると思うのです。名実ともに世界一の食味を誇る天栄米。
2017年のコンクールは11月20日。もし、10年連続の受賞となったら…熟成されたワインのように1袋10万円なんて事になるかもしれません。

天栄村元気プロジェクト(公式サイト)
道の駅羽鳥湖高原(公式サイト)