【取材レポ】1日1000件の注文を捌く、スピードと丁寧さの両立――果物を守る物流現場の舞台裏

 オンラインで果物を注文したとき、箱を開けた瞬間に「うわー美味しそう!」と感じることもあれば、「粒が落ちていた」「打ち身があった」と残念に思うこともあるかもしれません。実際、果物はとても繊細で、少しの揺れや扱い方で傷みやすく、クレームにつながることもあります。

 その裏側では、現場のスタッフが日々「どうすれば一番良い状態で届くか」に頭を悩ませ、工夫を重ねています。箱詰めの仕方、検品の目利き、緩衝材の詰め方──すべてにノウハウがあります。

 今回は豊洲市場の物流拠点で、実際に出荷を担当しているぶどう担当の鳥海章さん、もも担当の藤原誠樹さんに、その工夫とこだわりを伺いました。

梱包はスピード命!でも一房ずつ丁寧に

梱包場に立つと、鳥海さんの手の動きがとにかく早い。次々に箱へと収められていくぶどうは機械作業のよう。

「ぶどうの梱包は一日500件以上、多いときは1000件近くになります。だからスピード命。でももちろん、ひとつひとつ丁寧に確認しています」

特に豊洲市場ドットコムで人気の黒ぶどう(巨峰やナガノパープルなど)の大粒は、ほんのわずかな衝撃で粒が落ちてしまう繊細さです。

「粒が一つ落ちればすぐに分かってしまいます。触りすぎないように、でも素早く検品する。それが一番大事なんです」

鮮度を見極める目も欠かせません。粒の表面にうっすら白い粉のようなものが残っている房を手にとり、鳥海さんは言います。

「これは“ブルーム”と呼ばれるもので、鮮度が高い証拠なんです。カビと勘違いされる方もいますが、実は“良いしるし”なんですよ」

梱包の仕上げは輸送中の揺れ対策。箱の中に緩衝材を敷き詰め、四隅を埋め、さらに上部に厚みを持たせます。

「横揺れも縦揺れも防げるように、二重にして隙間をなくす。そうやってガッチリ固定すれば、房全体を守れるんです」

大量の出荷をこなしながら、一房ごとの状態を確かめ、箱の中の揺れまで計算するーーそのスピードと丁寧さの両立は、鳥海さんの仕事の真骨頂といえるでしょう。

柔らかい桃を守るために必要な「地味な工夫」

一方の桃のコーナー。山積みの桃を前に、スタッフ総出で検品作業が進みます。箱を開けた瞬間から、細やかな目が光ります。

「多いクレームはカビや打ち身ですね。特に桃は果物の中でも傷みやすい。だからスタッフ全員でしっかり検品しています

柔らかい品種ほどリスクは高まります。

「桃によっては本当に柔らかいものもあります。そういう場合は通常以上に丁寧に扱わないとすぐに傷んでしまうんです」

そして梱包にも工夫を凝らしています。

「昔は5キロ箱をそのまま出すことが多かったんですが、最近は2.5キロに小分けした需要が増えています。小分けにする分、緩衝材を工夫して、中で果実がバウンドしないようにしています」

夏の最盛期ともなれば、一日の作業は500〜600件にものぼります。

「数は多いですが、上にも緩衝材を重ねて厚みを出し、中で動かないようにする。そういう地味な工夫の積み重ねで守っているんです」

柔らかさゆえにデリケートで、すぐに傷んでしまう桃。それでも一つひとつ丁寧に目を通し、緩衝材で包み込む。そんな手間と工夫が、箱を開けたときの「きれいで甘い桃」に繋がっていました。

クレームを減らすために、見えない努力を重ねる

どれだけ注意しても、生鮮品ゆえにクレームがゼロになることはありません。

それでも現場では、検品・梱包・輸送のすべての段階で工夫を重ね、安心して届けられるよう努めています。

果物が届いたときの「きれい」「おいしい」という一言の裏には、こうした物流現場の舞台裏があります。