
こんにちは。うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。北陸に、夏野菜・ナスの季節がやってきました。
売り場に並ぶのはほとんど中長ナスですが、伝統野菜のナスを心待ちにしている人も多いんです。

伝統野菜といえば、なんといっても京野菜が全国区。石川県の“加賀野菜”も、かなり知名度が上がってきました。実は福井県にも“福井百歳野菜”と呼ばれる伝統野菜があります。
福井は、「身土不二」という教えで食育の祖と言われている石塚左玄の出身地。守り継がれてきた伝統野菜の福井百歳野菜は、次のような定義が定められています。
1.生産者自らが、種をとり栽培している
2.100年以上前から栽培されている
3.地域に根ざした作物である
条件を満たした23品目のなかで、ナスは5品目を占めます。ナス愛強めの福井のなかでも鯖江市で栽培されている「吉川(ヨシカワ)ナス」は、福井県内だけではなく、石川県の料理人たちからも高く評価されている丸ナスです。

この吉川ナスは賀茂なすの原種で、1000年以上の歴史があるナスだと言われています。昭和のはじめごろには関西地方に出荷されるほど盛んに栽培されていましたが、伝統野菜ゆえに栽培が困難で収穫量も少ないため、栽培する農家が減っていきます。いよいよ栽培農家がいなくなるとなった平成21(2009)年、「鯖江市伝統野菜等栽培研究会」が有志によって結成され、吉川ナスは復活しました。令和7(2025)年は21軒の農家で50,000個の収穫を見込んでいるそうです。
重さは約300グラム、直径は10センチほど。ちょうどソフトボールぐらいの大きさ。一般的なナスと比べて油を吸いにくく煮崩れもしにくいのが特徴の吉川ナス。薄い皮ごと食べられるので、鯖江市の「道の駅西山公園」では、期間限定のオリジナル「吉川ナスバーガー」が人気メニューになっています。


石川県金沢市の伝統野菜「加賀野菜」でも、ナスが認定されています。「ヘタ紫なす」という小ぶりのナスで、漬物や甘辛く煮た「オランダ煮」、またそうめんのトッピングとして金沢の夏の食卓に欠かせない野菜でした。

このヘタ紫なすも例外ではなく“伝統野菜あるある”で、栽培の難しさや食生活の変化で、生産者の後継者問題や収穫量の減少という問題を抱えていました。そこに登場したのが、若い女性の生産者・多田礼奈さんです。“大好きなじいちゃん”のあとを継いで就農を決意した彼女は、祖父の名前を冠した「きよし農園」で、ヘタ紫なすの栽培を受け継ぎます。
(画像:多田礼奈さん)ヘタ紫なす栽培に取り組む、きよし農園代表・多田礼奈さん

「漬物とかオランダ煮だけじゃない食べ方も知って欲しい。ヘタ紫なすは火を入れたら、とろっと甘くなるから」。
多田さんは地元のシェフたちの力を借りながら、新しい食べ方を模索します。それと並行して、従来の栽培方法を踏襲しつつ土の分析をし、水や肥料を工夫して糖度やうま味を上げるチャレンジを続けました。今ではさまざまなジャンルのシェフたちが「きよし農園のヘタ紫なすです」とドヤ顔で説明する、金沢を代表する食材になりました。


今回ご紹介した加賀野菜や福井百歳野菜だけではなく、伝統野菜は今、生産者や料理人、研究者のみなさんのおかげで、全国的に復活してきているようです。これからも長く守り継いでいくために、作る人たちだけではなく、私たち“食べる人”も、大切に食べ継いでいきたいと思っています。