マタギの宿の女将曰く「熊の肉は5月が一番」【特派員ブログ】

つぐまたかこ
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こんにちは。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
石川県といえば海の幸のイメージですが、実は山の恵みも豊富です。

山岳信仰でも知られる白山©石川県観光連盟


石川県、福井県、岐阜県にまたがる霊峰白山。そのふもとには山特有の暮らしがあり、独特の食文化が息づいています。報恩講料理、固豆腐、とち餅、山菜、きのこ、川魚、蕎麦、かっちり、かまし…。そして、鹿や猪、熊肉といったジビエも山のごちそうです。

白山麓のなかでも雪深い一里野温泉に、岩間山荘という宿があります。ご主人は猟師。今のようにジビエが害獣駆除の副産物になる前から山に入り、熊や猪を捕まえています。今では息子さんも一緒に山に入っているそうで、親子二代のマタギです。
ふたりが獲ってきた山の命を料理にしているのは、女将の祐子さん。宿の切り盛りだけではなく、ノルディックウオークのガイドでも山の魅力を伝える、アクティブな女性です。私にとっては、山の食文化の先生のような人です。

一里野温泉岩間山荘の女将・北村祐子さん

祐子さんは、熊のことを「熊さん」と言います。ほかの動物はそのまま「猪」「鹿」「猿」「岩魚」なのに…と指摘すると、彼女は笑顔で答えました。
「あ、そうやねぇ。意識したことはなかったけど。熊さんはやっぱり特別。山の神様みたいなもんやから」。
そんな彼女の「熊さん」の料理は格別。「命をいただくのだから」と、敬意を持って丁寧に扱い、骨も内臓も余すところなく使います。「熊さんのお肉は5月が一番!そのころは山菜もおいしいしね」と祐子さん。冬眠前の太った熊がおいしいという人もいるようですが、山の先生がおっしゃることなら間違いないでしょう、と5月に岩間山荘を訪ねました。

「熊の肉は脂が甘い」と実感できる熊の刺身

猪肉のチャーシューや鱒の刺身、山菜の天ぷら、酢の物などを合間に、熊さんの料理が次々に出てきます。

ナッツっぽくてうま味の濃い熊肉の鍋。思わずスープを飲み干しました。

鍋に入っているのは青菜はアザミ。祐子さん曰く「熊さんのお肉にはアザミと決まっている」。熊さんがアザミを食べるので相性がよいとのこと。

獲って来た人だから味わえる部位が、なんてことない普通の顔をして登場します。

骨の周りがうまいのは、熊に限ったことではありませんが。次の料理が運ばれてきても、ずーっとしがんで(これは関西弁だそうです)いました。

熊さんのお肉が、なんと!ハンバーグになって登場しました。家庭的な器にキャベツの千切り、とのギャップ萌え。

締めは炒飯。「熊の脂っておいしいね」と再々認識。ループのような熊さんの味わいでした。

一里野温泉は現在、2021年の雪害と2022年の豪雨の影響で源泉施設が損壊。温泉が供給できない状況になっています。それでも温泉宿のみなさんは、温泉成分が含まれる地下水を湧かしたり,サウナを作ったりして、訪れた人に楽しんでもらえるよう工夫を重ねています。熊肉以外にも、山菜、川魚、秋には天然キノコも採れる、山の恵みの宝庫です。