
こんにちは。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
新年を迎える準備で忙しいこの時期の金沢には
ほかの地域ではお目にかかれない不思議なものが店頭に並びます。

ピンクと白の丸いもの。これ、何だと思いますか?つぶれた紅白饅頭のようですが、実は、お正月に飾る鏡餅なんです。鏡餅といえば普通、大小の白い丸餅を重ねたものだと思われるのですが、金沢では、白い丸餅の上にピンクの丸餅を重ねます。一番上に橙の実をのせること、おうちの格式や床の間などの飾る場所の大きさによって餅の大きさが変わること、大きな餅は立派な三方の上に裏白や柿串と一緒に飾ることなどは、ほかの地域とほぼ同じです。ただ、餅が紅白。おめでたいといえば確かにそうなのですが、金沢に越してきた当初、この紅白の鏡餅を見たときは、驚きました。
この紅白の鏡餅については諸説あるのですが、室町時代に足利家の家臣が朝廷に反発して、正月の鏡餅に紅白の餅を将軍に献上したことが起源だともいわれています。それを加賀藩主・前田家が受け継いだからとか。『加賀藩年中行事図絵』などの資料には、紅白の鏡餅の絵が描かれていることから、当時から加賀藩では紅白の鏡餅をお供えしていたのは確かなようです。ただ、当時の前田家の鏡餅はピンクが上で白が下。現在の金沢の鏡餅とは逆の色合わせです。殿様のしきたりを町人がそのまま取り入れるのは、恐れ多かったからではないかと言われています。

紅白の餅が入った金沢のお雑煮。
武士の反骨精神の表われだとされる紅白の鏡餅ですが、おそらく、その華やかさが金沢の人たちの心をくすぐったのではないでしょうか。
その証拠に、お雑煮の餅も紅白です。おうちによっては白い角餅のところもあるようですが。店頭で「お雑煮餅」として販売されているのは、小さな紅白の丸餅です。この紅白丸餅のお雑煮はお正月だけではなく、結婚式でも登場します。その名も「落ち着きの餅」。地元のウエディングプランナーさんに聞いたところ、「赤のお餅は新郎様、白のお餅は新婦様を表しています。新婦様の白には白無垢と同じで、どんな色にも染まり、嫁ぎ先に馴染みますように。そして末永く落ち着かれますように。そんなお祝いの意味や幸せを願う素敵な意味が込められているんです」と。ジェンダーレスなこのご時世に、微妙ではありますが。

「福梅」は金沢の年の瀬から正月の風物詩。(©金沢市)
そしてもうひとつ、紅白のもの。梅の形をした紅白のもなかで「福梅(ふくうめ)」という和菓子です。大きさは店によって違いますが、概ね4センチほど。餅米を使った皮には雪を模した砂糖が薄くまぶしてあり、中のつぶあんには飴が練り込まれています。そうです。ご想像通り、ものすごく甘いのです。これは、和菓子職人に正月休みを与えるため、日持ちを良くする必要があったからだとか。

もなかの中には、黒々と練り上げられた濃厚な餡がたっぷり。
始まりは、藩政時代。菅原道真の末裔と位置づけていた加賀藩主前田家が、京都の北野天満宮で行われた道真公の献茶式で出された餅菓子「寒紅梅」をヒントに考案したと言われています。ただ、前田家の家紋「梅鉢」を模した菓子のため、庶民に広まったのは、おそらく明治に入ってからではないかと思われます。
今では、金沢とその近郊の多くの和菓子店で作られていて、店によって梅の形や餡の味など多種多様。ぞれぞれのおうちで贔屓の福梅があるようです。12月初旬になると、和菓子屋さんだけではなく、百貨店やスーパーの店頭を占拠します。元々は年の暮れから松の内あたりで販売されていたようですが、今では年々早まっていて、お歳暮として贈り物にされ、正月前後に家で楽しむお菓子になりました。

金沢版フォーチュンクッキー「辻占」。この中に小さな紙でお告げが…(©金沢市)
和菓子好きの金沢のまちでは、紅白ではないお正月菓子も。俵や打ち出の小槌を象った餅種の中に金華糖や小さな土人形が入っている「福徳(ふっとこ)」や、折り畳まれた煎餅のような生地の中に入った小さな3枚の紙に書かれた言葉で新年を占う「辻占(つじうら)」です。
辻占は、金沢版フォーチュンクッキー。ちなみに2025年の正月、私の辻占は「返事を待つ」「宝くじがあたる」「あきらめない」でした。残念ながら、この1年、宝くじはあたりませんでした(笑)。

紅白の餅と福梅が並ぶと、「ああ今年も終わりだなぁ」と感じる金沢の年の瀬。
来年も良い年でありますように。
