
こんにちは。
こんにちは。 うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
下の写真を見て「えっ?」と思ったあなた、その反応は大正解です。実は私もそうでした。ちょっとグロい見た目のこの魚“ゲンゲ”は、寒さで表面のぷるぷる度が増す、今が旬。
“幻魚”と書かれることもあり、地元では “深海の珍味”なんて呼ばれている人気者なんです。
一度食べたら、見た目で判断したことを、きっと後悔すると思います。

「でっかいおたまじゃくし?」最初にゲンゲを見たとき、心の中でそうつぶやきました。
その反応に魚屋さんは、「ぷるぷるはコラーゲンやけ、お肌にええよ」と。当時は今より20歳ぐらい若かったけれど、妙齢女子には効くワードです。「ブツブツ切って、味噌汁に入れたらええがいね(いいよ)」と、これまたハードルの低い食べ方を提案され、ひと盛り買って帰りました。
言われたとおりに作った味噌汁は、ぷるぷるした表面の食感と淡泊な白身の味わい、そして濃厚な出汁。「あ゛〜」と思わず声が出ます。コワモテが優しい言葉をかけてくれた、とか、イケテナイ風貌なのに喧嘩が強い、とか。
ゲンゲとの初めての出会いは、強烈なギャップ萌えから始まりました。

ゲンゲは、水深200メートル以上の深海に生息する魚です。1000メートルの深さを持つ富山湾には水温0度に近い海洋深層水があり、そこに多様な生物が存在していることから、“天然の生簀”と呼ばれています。
その生簀の中で、ホタルイカ、シロエビ、ベニズワイガニなどのスターの陰に隠れていたのが、ゲンゲです。甘エビ漁で網に混ざって獲れていたのですが、見た目のグロさと劣化の早さが嫌われて捨てられることが多く、「下の下の魚」からゲンゲという名がついたという説もあります。
とはいうものの、漁村では昔から味噌汁の具や吸い物の種として使われていて、その味は知る人ぞ知るものだったよう。地元の料理人さんたちがおいしい食べ方を研究し、流通技術が発達するにつれ、「下の下」が「幻魚」になってきたのです。

底引き網漁の時期、9月から5月ごろまで獲れるゲンゲですが、冬はとくにおいしいとされています。産卵期で体内の栄養が増え、ぷるぷるのゼラチン質がより豊かになるからです。このゼラチン質は、グリシン、プロリンなどのアミノ酸を多く含み、甘味や旨味が濃厚。汁物や鍋に入れると、煮こごり状のとろみがたっぷり。からだもぽかぽか温まります。
ただゲンゲは、そのおいしいゼラチン質を持つために、皮膚と筋肉が非常に柔らかく、身崩れしやすいという欠点があります。また、脂肪が少ない淡泊な身は水分が多いため、温度が上がると急速に品質が低下して、時間の経過とともに溶けるように崩れてしまうのです。キャー!
生のまま流通することが難しい魚。地元でしか食べられない「幻魚」と呼ばれるのも納得です。しかし今は、漁師さんたちが水揚げ後すぐに氷水で冷やし、素早く選別・出荷することで、流通網も少しずつ広がってきています。また、急速冷凍したものも出回り始めました。

生で流通が難しいなら、日本には干物という知恵があります。ゲンゲは干物で知ったという人も多いのではないでしょうか。水分が多い分、かなり痩せこけた姿になってしまいますが、干すことでゼラチン質の水分が抜け、アミノ酸の旨みが増します。
これを軽く炙ると、あら不思議。ほんの少しぷるぷる感が戻ってくるのです。旨みと香ばしさ、そして少しぷるっとした食感。もう、日本酒がどんどん進むこと、間違いなしです。
さらに最近は、ゼラチン質のコラーゲンが健康や美容によいと注目されて、サプリメントも開発されたようです。20年前に魚屋さんが言った「お肌にええ」は、あながちデタラメではなかったみたい。効果の程はコメントできませんが、今では、ぬるっとしたグロい見た目を、「おいしそう」と自動変換できるようになりました。
