
暑中御見舞申し上げます。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
連日の猛暑に酷暑に、「お昼どうする?」「そうめんでいいよ」。
「そうめん“で”」には世の奥様たちの言い分がいろいろありそうですが、富山県上市町(かみいちまち)でそのセリフを言うと、違った意味で怒られるかもしれません。
今回は、地元の人たちが「美しい作品」と誇りに思う、名物そうめんをご紹介します。

「家で食べるそうめんと一緒にするな!」
「流しそうめんじゃないぞ、あれは美しい“作品”だ!」
今から10年以上前、その存在を知らなかった私に、地元・上市の人が熱く語ったのは、「ドライブイン金龍」のそうめんへの愛とリスペクト。そんなに言うなら、と車を飛ばして食べに行き、驚きました。
「なんじゃこりゃぁ!」。黄金色に輝くつゆの中には、つややかな麺筋。トッピングはねぎとしょうがのみというシンプル極まりない、ぶっかけスタイルのそうめんです。
キンキンではない、なんともいい塩梅の冷たさ、コシのある麺と最後まで飲み干せてしまう、旨みたっぷりのつゆに、すっかり虜になってしまったのです。そして今年も、最高気温が35度を超えると聞いた日、行ってきました。
富山駅から富山地方鉄道に揺られること約30分。上市町は、標高2,999mの剱岳(つるぎだけ)の山裾に位置しています。上市駅から山の方へ10分ほど車を走らせると、真言密宗の大本山「大岩山日石寺」の参道入口に、目指す「ドライブイン金龍」はあります。
店の手前数十メートル、田畑が広がるのどかな道に、突如現われる車の行列。駐車場に入りきれなかった車が縦列駐車しているのです。平日の昼だというのに、店の前には行列ができていました。

1960年、お寺を参拝する人たちの軽い食事処として金龍はオープンしました。創業以来の看板メニューが「そうめん」です。先代が「暑い夏でもおいしくて、参拝客にさっと出せるものを」と始めたのがきっかけだそうですが、いまやこのそうめんめあてに参道が溢れかえるのですから、先代の狙いは大当たりだったということでしょう。
このあたりでは、金龍のほか、参道にある2軒「だんごや」「大岩館」でもこのスタイルのそうめんを提供していて、総じて「大岩そうめん」と呼ばれています。

店頭では愛らしいタヌキの置物と、冷たい湧き水が出迎えてくれます。ここ上市町は、剱岳の雪どけ水が地下水となってあちこちから湧き出る、北陸屈指の名水スポット。この「水」が、金龍のそうめんの食感や味わいの秘密に違いありません。
富山のそうめんといえば、「大門(おおかど)素麺」が知られています。しかし、金龍のそうめんは、なんと、淡路島で作られている手延べ三年熟成のものでした。その距離475km、直線距離でも約350km。交通網が発達したとはいえ、金沢からお江戸と変らない距離の淡路島です。しかし、このそうめんじゃないと、金龍の味にはならないとのこと。この特製の麺を一般的なそうめんの2〜3倍の時間、5分ほど茹で、冷たい湧き水でしっかり締めることで、つゆにつけて出してもふやけない、細くてもしっかりしたコシのある麺に仕上がるそうです。
そのつゆは、湧き水をベースに、カツオ、昆布、しいたけ、あご(トビウオ)などの出汁をブレンド。そこに地元富山で作られる、少し甘めの砺波(となみ)の醤油を加えます。角が一切なく、さっぱりしているのに旨味の塊。麺を啜ったあと、思わず丼を傾けて最後まで飲み干してしまいます。私だけではありません。まわりの人たちもほとんどが丼を両手につゆをゴクゴク…。向かいに座っている、知らないおじさまの血圧を心配するのは、よけいなお世話ですね。
あまりのつゆのおいしさに「持ち帰って家でも食べたい!」と、店先でお土産用のつゆを買おうとした時のこと。お店のおばちゃんがニヤリと笑ってこう教えてくれました。
「これね、防腐剤が入っとるから、お店で出す味とはちょっと違うんよ(笑)。お店のは、ぜーんぶ手作りやからね」
…そこまで言われたら、またこの店に食べに来るしかありません。商売上手なのか、ただ商売っ気がないのか(笑)。この飾らないおばちゃんのキャラも、金龍が愛される理由なんだろうな、と思いながら、そうめんだけ買って家路につきました。近い味を再現してみようと思っていますが、どうなることやら。

登り切って降りてきたら、また食べたくなるかも?
