漁港も料亭もB級も。富山の初夏は白エビ天国【特派員ブログ】

つぐまたかこ
つぐまたかこ

こんにちは。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
4月3日、富山湾では白エビ(しろえび)漁が始まりました。
この季節の富山は、漁港も料亭も寿司屋も居酒屋もB級グルメの店まで、あちこちで白エビが主役。
小指ほどの小さな「富山湾の宝石」が、まちを賑わせています。

毎年4月になると、富山の寿司屋に足が向きます。おめあては、上の写真。「白エビの握り」です。白く輝く小さなエビを、これでもかとてんこ盛りにした一貫。崩れ落ちないようにそーっと口に入れた瞬間、とろっとしたエビたちがすし飯と一緒にふわりとほどけ、甘みと旨みが広がります。「うんまぁい」と思わず出た、ちょっとお下品な一言を、ニコニコしながら聞いていたご主人が言います。「今年はシケで解禁が2日もずれ込んだから。震災以来、量も少なくなっているみたいで心配していたけど、少しずつ回復してきたみたいや」。

©(公社)とやま観光推進機構

白エビは標準和名では「シラエビ」。学名は「Pasiphaea japonica」です。Japonicaという名の通り日本の固有種。日本各地の海に広く分布しているものの、漁業として成り立つほどまとまって漁獲されるのは、富山湾の新湊沖と富山市沖だけといわれています。どちらも大きな河川の河口部にあたり、小矢部川や庄川が刻んだ深い海底谷が広がっています。 水深100〜600メートルの深海に生息する白エビにとって、ここはまさに“格好の住処”。地元の漁師さんたちは、この海域を昔から「えん場(エビ場)」と呼び、大切に守ってきました。


なかでも新湊沖の海底谷は、1969年に「白エビ群遊海面」として文化財にも指定されています。この“富山湾にしかない恵み”を守るため、漁期は4月〜11月に限定。 さらに新湊漁港の白エビ漁船は、二つの班に分かれて1日おきに操業し、全体の水揚げ量を調整する「プール制」を導入しています。


水揚げ金額が均等に分配されることだけではなく、乱獲を防ぐために、稚魚が混獲されたときや、豊漁になりすぎたときには、漁業者たちで協議し、その後の操業回数を減少させるなどの対応策を施します。またベテランの漁師が何十年という期間をかけて会得した技術を、惜しげもなく若手へと伝える、技術継承の場にもなっているそうです。

「白エビって、白いと思うでしょう?でも、水揚げしてすぐの白エビは透明で薄いピンクのような色。ちょうど朝日にキラッキラ光って。 “富山湾の宝石”とはよういうたもんや」と、誇らしげに語ってくれた漁師さんですが、過去の黒歴史をベテランから聞いたと教えてくれました。


「30年ぐらい前までは、干したものを食紅で染めて、サクラエビの代用品として売っていたって。干すと飴色になるから“ベッコウエビ”なんて呼ばれていたそうやわ」。 当時は浜値も安く、白エビを獲る漁師も多くはなかったそうです。


ところがその後、一度冷凍すると殻がむきやすくなることがわかり、状況が一変します。最新の冷凍技術を導入した地元の水産加工業者が刺身用のむき身の販売を始め、白エビは一気に高級食材へ。上品な甘みと美しい透明感を持つ“富山湾の宝石”として、全国に知られる存在になっていきました。

料亭「松月」の名物「福団子」。1本に約200尾の白エビを使ったすり身を炭火で炙る。

その“宝石化”をさらに後押ししたのが、富山市岩瀬地区にある料亭「松月」です。明治44年創業、北前船で栄えた当時の面影を残す建物で、古い町並みに静かに佇むこの店は、白エビ料理の“元祖”といわれています。


松月の名物「福団子」は、白エビをすり身にして串にし、炭火で香ばしく炙ったものです。一本に使う白エビは、なんと約200尾。 コースの一品として、客の目の前で丁寧に焼き上げるのが松月流です。炭火で炙られてふわりと立つ香り、口に入れるとねっとりとほどける食感、淡いエビの香りが鼻に抜ける上品な味わい。この一串が、白エビの魅力を一気に引き上げたというのも納得です。

白エビのからあげ

今では富山の街を歩けば、春の味としてさまざまな白エビ料理に出会えます。居酒屋では、丸ごと揚げた白エビのからあげがビールの相棒として人気です。 回転寿司や道の駅でもお目にかかれるようになりました。白エビをたっぷりのせた白エビ丼は、観光客にも地元の人にも愛される春の定番。さらに、新湊のご当地バーガー「白えびバーガー」は、かき揚げを大胆にサンドしたB級グルメとして存在感を放っています。

いまや全国区“ビーバー”だが、白エビ味は北陸限定。

おみやげの世界にも白エビは広がっています。数社が出している白エビ煎餅は軽やかな香りが人気で、富山駅でも定番の一品。隣の石川県でも、あの“ビーバー”シリーズの白エビ味が、地元でファンが多いおやつになっています。

寿司でも、丼でも、からあげでも、おやつでも、それぞれに違った表情を見せてくれるのがこのエビの面白さです。 小指ほどの小さな体に、春から夏にかけての旨みがぎゅっと詰まっている白エビ。貴重な富山湾の宝石を守る漁師さんたちの顔を思い浮かべつつ、食いしん坊は、今年もまた、いろいろな白エビを味わいたいと思うのです。