
こんにちは。うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
夏の加賀野菜を代表する「加賀太きゅうり」は重さ約600グラム、普通のきゅうりのおよそ6倍。中には1キログラム近い大きなものもあります。
今月は、金沢の食卓で長年愛され続けるこの巨大なきゅうりのおいしさの秘密を探ってみようと思います。

20年ぐらい前のこと。キリン一番搾りのCMに加賀太きゅうりが登場しました。佐藤浩市さんが黄金色のビールを片手に、加賀太きゅうりを皮ごとガブリと、ワイルドに丸かじり。まだ知名度の低かった加賀太きゅうりをお取り寄せし、CMを真似て皮ごといっちゃった人が、全国にたくさんいらっしゃったことでしょう。しかし、この加賀太きゅうり、実は皮を剥いて食べるものなんです。
皮を厚めに剥くと、翡翠色の果肉が現れます。種とワタを取り除いて、金沢らしい甘めのしょうゆ味の出汁でコトコト。仕上げに葛や片栗粉でとろみをつければ、夏の食卓に欠かせない定番、「加賀太きゅうりのあんかけ」のできあがり。熱々もいいですが、暑い日は冷やして食べるのがおすすめです。とろとろになった果肉から、じんわり染み出る甘みと出汁の旨みが口いっぱいに広がって、ほんの少し涼しく感じるから不思議です。

もちろん、生で食べる瑞々しいサラダも捨てがたいのですが、やはり熱を加える調理のほうが、加賀太きゅうりの良さを発揮するような気がします。調べてみると、それには2つの理由がありました。
ひとつは、含まれている糖質が、温めることで角が取れ、出汁や肉の旨味と調和しやすい、まろやかでコクのある甘みに変化するから。ふたつめは、加熱によって細胞壁が軟化し、中の水分が適度に抜けて、外からのグルタミン酸などを肉厚な果肉がスポンジのようにギュッと吸い込むから。生では味わえない味に大化けする秘密です。

この「加熱して最高に美味しくなる肉質」は、偶然できたものではありません。10年ほど前、加賀太きゅうりの産地・金沢市打木(うつぎ)地区のレジェンド生産者さん・松本惲さんにお話を伺う機会がありました。
松本さんが加賀太きゅうりの生産を始めたのは、昭和50年代のはじめ。ガラスハウスで普通のきゅうりを育てていた当時、ほかの地区で加賀太きゅうりを生産していた生産者さんから種を分けてもらったそうです。大きくゆっくり育てる加賀太きゅうりは、収穫の手間が少ないと喜んだそうですが、松本さんはまもなく壁にぶち当たります。曰く、「固定種は、揃わんのや」。
伝統野菜は、一律なものを作るために改良されたF1品種とは異なり、太さや長さ、色もまちまち。種をまき、育ち具合を見ながら色や形、味が良いものの種を採ってまき…それを毎年繰り返すことで、固定種である伝統野菜は守り続けられます。
加賀太きゅうりの生産者さんたちは、ほかの品種と交配させないよう、明日開きそうな蕾を洗濯ばさみで一つずつ留めて人の手で交配。ときどき出る苦味をなくすため、ハウスの中でリンゴをかじって口をリセットしながら生のきゅうりをかじって味のよいものを選別します。そうして良いものだけの種を選抜し、植えて…を繰り返しながら伝統の味を守り継いできました。

お話の最後に、松本さんは誇らしげにこう言いました。「打木の加賀太きゅうりの農家は、全員に後継者がおるよ」と。
あれから10年。加賀太きゅうりの産地では、その言葉通り、見事に世代交代が行われています。松本さんの畑でも息子の充明さんを中心に、今は収穫の最盛期を迎えています。加賀太きゅうり部会は、10年前から1名増えて13名になりました。今シーズンは400トンの出荷を目指しているそうです。
余談ですが、お隣の富山県高岡市にも、加賀太きゅうりとよく似た「どっこ胡瓜」という伝統野菜があります。「どっこ」とは、太くて短いという意味。見た目だけではなく、調理法にも共通する点が多く、北陸にはこの太いきゅうりを美味しく食べる知恵が深く根付いているようです。
何世代もの生産者さんたちが、守り継いできた伝統野菜。加賀太きゅうりを食べると、「ああ、夏が来る」と思います。出汁しみしみのあんかけはもちろん、春巻きや麻婆太きゅうりも…先日はカレー風味にしてみました。淡泊なのに、食感がしっかりしているので意外といろいろな料理に使えるんです。この時期、食いしん坊の視線は、八百屋さんの店先でピカピカ光る濃い緑色に釘付けです。



加賀太きゅうりは、いろいろな料理にアレンジできる。左から、フェタチーズの塩気と合わせたギリシャ風サラダ、チーズと一緒に豚バラで巻いて具にした春巻き、真ん中にひき肉を詰めたカレー味のあんかけ。

