豊洲市場ドットコムの八尾です。突然ですが私は「ごはんソムリエ」という資格を持っています。そんなのあるのですか?とよく問われますが、これが本当で…
過去には炊飯器のカタログにも顔を出させてもらったこともあります。
そんなことで、当店のお米のお仕事となると基本的に私が企画しております。
今回、非常に珍しいお米の情報をいただき取材してきました。現代ではほんと見なくなった水車精米のお米です。
訪れたのは南魚沼。
魚沼と聞くと「米どころ」の印象が強いと思いますが、実は北魚沼・中魚沼・南魚沼と大別されまして、一番価値が高いのが『南魚沼』なのです。
生憎の曇り空でしたが、南魚沼を一望できる護国観音展望台から。これを見ると四方を山に囲まれた盆地に田んぼが広がっているのがわかります。豪雪地帯であるこの地域では、雪解け水が山で濾過されて、中央を流れる魚野川に流れ込みます。
あらゆる方向からミネラルの溶け込んだ澄んだ水が供給されるので、お米作りにこれほどまでに適した土地はなかなかありません。
この限られた環境から世界一高い米が生まれています。
南魚沼は特別であることがわかる景色です。
今回私が訪れたのがこちらの株式会社吉兆楽。
大阪で米屋を営んでいた先代が90年代初頭の米の自由化に伴い、本物の魚沼産を求めてこの地に裸一貫で開業したという、開拓精神にあふれた会社です。
その成り立ちからして驚くばかりですが、お米の扱い方もまた特別です。
これは吉兆楽の米蔵の一角。春先に魚沼に降り積もった自然雪をため置いたものです。この空間いっぱいに雪を詰め込みます。取材したのは10月ではかなり溶けているとのことですが、それでも雪の量は迫力がありました。この雪の作り出す冷たい空気が倉庫全体に広がりお米の保管に最適な温度を作り出す雪蔵となるのです。
吉兆楽の専務 水野氏は元商社マンにして、今は五つ星お米マイスターという経歴を持つお米のプロ。彼はこう語ります「お米は野菜と同じです。」
「野菜は皆さん野菜室に入れて保管します。お米も同じなのです。温度が高いと鮮度が落ち食味が落ちてしまいます。私たちは魚沼の恵まれた雪を使って温度を調節し、お米にとって良い環境を作り、新米と変わらない鮮度・食味を長くお客様に提供できるようにしています。」
ただ冷やせばいいわけではありません。雪の生み出す空気は湿度が高いため、保管中の品質劣化をより防ぎますが、いざ普通の温度に戻すときには結露が発生することもありそれを防ぐためには独自の技術も必要になってきます。吉兆楽はこの技術のパイオニアで米どころ魚沼でも他にはできない品質の美味しいお米を、年間で安定供給しているのです。
温度を高めないことがお米の美味しさには重要。ではそれを最大限に生かすにはどうすればいいのか…
それは「精米の際にも極力温度を高めないこと」です。
そこで、ここでも自然の力を活かします。
こちらは吉兆楽の水車小屋。地下水をくみ上げ循環させた水流で水車を回し、お米の精米を行います。
一昔前には広く行われていた精米方法ですが、効率的な技術により徐々に失われていきました。
水車小屋の中では、水車の動きに合わせてガタンガタンと一定のリズムで石臼と木の杵がお米を搗いて、精米しています。機械式の精米機でもお米同士を擦り合わせ精米するので、原理は同じですがとてもゆっくりとした動きです。
一度に多くのお米を高速で擦り合わせる機械精米ではどうしてもお米が熱を持ってしまい、その分味が落ちてしまいます。水車精米はゆっくりとした動きのため熱があがらず旨味が落ちにくく、そのうえとれた糠と米を混ぜ合わせながら精米するので、糠の油が米に浸透し一味違う仕上がりになります。
すり鉢状の石臼と先端に工夫のある杵により、お米は臼の中で循環し時間をかけてじっくりと全体が精米されます。とても気の長い精米作業で、玄米40kgとして業務用精米機なら10分もあれば精米できますが、水車精米だと23時間かかります。
それだけ時間をかけてできたお米は、昔ながらの糠の香りのする艶々としたお米となります。
長年お米に携わっていますが、これほどまでに糠の香りのよいお米は初めてです。
雪蔵仕込みと水車精米、それも南魚沼産のコシヒカリを使って…
これ程の品物があったとは、私も驚きでした。
非常に手間暇のかかった品ですが一度食べる価値があります。
近年入手困難な、糠の香りがする昔懐かしい本当に旨いお米。
近年の白米と違い炊飯時に「砥ぐ」というひと手間が必要になります。
これについては商品コンテンツにて解説をいたしております。
是非水車精米コシヒカリの紹介ページもご覧ください。
https://www.tsukijiichiba.com/user/collection/1358
(文章・写真:八尾昌輝)