蟹漁解禁!その日、金沢港はお祭り騒ぎ【特派員ブログ】

つぐまたかこ
つぐまたかこ

こんにちは。
うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
11月6日、ずわい蟹漁が解禁になりました。
待ちに待った蟹の季節の始まりです。
漁師さんも仲買人さんも、そわそわと心躍る蟹漁解禁の金沢港を取材してきました。

日も傾き掛けた16時ごろ、金沢港には蟹漁を終えた船が次々と戻ってきました。どの船も、蟹でいっぱいです。バケツリレー方式で手際よく船から降ろしていく漁師さんたち。みなさんなんだかうれしそう。昨年はシケで解禁日がずれ込んだのですが、今年は天候にも恵まれ、この日を迎えました。「大漁ですね」と聞くと「まずまずやわいね」と言いながら、顔はにんまり。泡を吹きながらもそもそ動いている蟹一匹一匹に、漁師さんたちが自ら加能ガニのタグ、金沢港のタグ、船の名前の入ったタグを付けていきます。漁協の人たちも、次々に運び込まれる蟹を並べ、セリの準備に取りかかります。港の中は、みるみるうちに蟹の赤い色で埋め尽くされていきました。

ずわい蟹の雄の呼び方が地方によって違うことはご存じだと思います。山陰では「松葉がに」、お隣の福井は「越前がに」。金沢港のある石川県では「加能(かのう)ガニ」です。産地ごとにブランド化が進んでいるのですが、石川県漁協では2021年から、身のぎっしり詰まった加能ガニのうち、次の条件をクリアした最高級のものを「輝(かがやき)」と名付けています。その条件とは次の通り。

・重さ:1.5kg以上
・甲羅の幅:14.5cm以上
・全ての脚がそろっている
・甲羅が硬く、身入りが良い
・鮮度の徹底(獲れた日をタグに記載)
・資源管理に積極的に取り組んでいる

これだけの条件の蟹は、そうそう獲れるものではないらしく、昨年度は漁期を通して6匹のみでした。今年は、解禁日にこの基準を満たす「輝」が獲れるのか?期待が高まります。

辺りが暗くなるにつれて、運び込まれる蟹の量もどんどん増えてきました。大漁に並ぶ蟹とは別の場所に、発泡スチロールの箱が整然と並んでいす。その箱の蓋には、1.5㎏恵比寿丸、1.6㎏諏訪丸、1.8㎏幸漁丸…と。船の名前と重さが書かれています。中を覗くと、大きな蟹が1匹ずつ入っています。これは、各船の「一番推し」の蟹。今年から始まった新たな取り組みで、漁師がその日、自分が獲った蟹の中から一番と見極めたものを「一番推し」としてエントリーし、セリにかけるのです。一番推しの蟹には、九谷焼きのタグがつけられます。


タグ、多いですね。しかもこの日は初物と言うことで、「初物ダグ」もつけられていました。たくさんのタグを結ばれた蟹は、いったいどんな気持ちなんでしょう。

セリが始まるまでに、エントリーされた蟹の重さと大きさ、また「輝」に該当するかどうかを、漁協の判定人が厳密に測定していきます。能登方面からは陸送で届く蟹もあり、全部揃うには少し時間がかかるようです。そんななか「輪島ででっかいのが揚がったらしい」「珠洲のは輝かもしれんと言うとる」漁師さんたちが噂話をしていました。
最終的に一番推しにエントリーした蟹は39匹。そのなかで、「輝」に認定されたのは、1匹のみでした。

「輝」の基準を満たすかどうか、甲羅の大きさ、重さを測り、記録していく。

19時30分、セリが始まりました。「一番推し」の蟹がセリにかけられたあと、いよいよこの日唯一の「輝」のセリです。昨年の最高値300万円を超え、350万円、400万円と徐々に値を上げた「輝」は、最終的に450万円で落札。市場2番目の高値をつけました。

1匹450万円の蟹をお買い上げしたのは、翌11月7日にグランドオープンする、金沢市内の料理旅館「つる幸」。ご主人の竹本啓亮さんは、セリが始まる前から蟹の品定めをしていましたし、気合いが入っているのは、傍から見てもよくわかりました。落札のあと、メディアに囲まれた竹本さんは、こう言っています。「なんとしてでも落としたいという気持ちで臨みました。鮮度もよく、滅多にないほど立派なカニなので、ぜひお刺身でお客様に楽しんでいただきたいと思っています。今回の初セリが少しでも明るい話題となり、被災された方々の希望や能登の復興につながればうれしいです。加能ガニを通して、全国の皆さんに石川県の魅力を知ってもらい、ぜひ訪れていただきたいと願っています」

メディアに囲まれ、450万円の蟹を誇らしげに高々と掲げる、つる幸主人の竹本さん。

この450万円の蟹を獲った漁師さんは、奥能登の珠洲市・蛸島漁港、長栄丸 船長 森下秀和さんでした。

森下さんのコメントも届いています。「重さもずっしりでキレイで、本当に良い加能ガニだった。震災当時、船団長をしていて、自分の家も倉庫もダメになった。暗いニュースばかりだったが、本当に明るい話題となってよかったし、頑張ってきて報われたと思ったし、これからも頑張って行こうと思えた。世間ではもう能登は元通りになっていると思われているがまだまだ復旧途上。今日の話をきっかけに知ってもらい、石川の魚を引き続き美味しく食べてもらいたい」。

石川県漁協によると、蟹漁解禁日に市場に上がった加能ガニは、33,894匹。昨年の16,320匹を大幅に上回る大漁でした。ただ、資源保護のため、今年の漁獲量は昨年よりも厳しく制限されるとのこと。地元の人間にすれば、高値で手が届かなくなるのも困るけど、蟹がいなくなってしまうのは、もっと困る。いつまでもおいしく食べ続けられることを願います。