スター甘エビを凌ぐ実力派。金沢人がこよなく愛する「ガスエビ」【特派員ブログ】

つぐまたかこ
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こんにちは。 うまいもん特派員・北陸担当のつぐまたかこです。
3月20日、金沢の冬を彩った加能ガニの漁が幕を閉じました。
港を赤く染めた蟹の季節が終わるのは寂しいですが、地元では、もう次の主役・エビたちが店頭を彩っています。
今回は、全国区のスター・甘エビの陰で、金沢人が密かに、かつ熱烈に愛でているエビをご紹介します。

蟹の赤と入れ替わるように、この時期の近江町市場は赤いエビが並びます。甘エビです。その横で、ちょっと肩身が狭そうにしているのが、ゴツゴツした少し茶褐色のエビ。これが「ガスエビ」です。写真を見ての通り、シュッとした鮮やかな赤色の甘エビに比べると、お世辞にも「映える」とは言えません。このガスエビ、かつては鮮度落ちが早すぎて、水揚げしたそばから頭が黒くなってしまうため、市場価値が低く「カス(ガス)みたいな扱い」だったのが名前の由来……なんて切ない説もあるほど。 その一方で、アシが早い分県外に出回ることが少なく、地元では「甘エビより甘い」と言われる人気者なんです。


ここ数年は、「現地でしか味わえない幻のエビ」などと全国の食いしん坊たちの間で注目度が急上昇。今や金沢の居酒屋や寿司屋のメニューには欠かせない存在です。近江町市場を歩けば、魚屋さんの店先で剥きたてを立ち食いし、「あま〜い!」と目を丸くしている観光客の姿もすっかりお馴染みになりました。

まわる店でもまわらない店でも、ガスエビは定番になりつつある。


このガスエビ、地元では「ガス」と親しげに呼ばれ、大きく分けると「黒ガス」と「白ガス」の2種類があります。 地元のスーパーに並び、私たちの日常の食卓を彩るのは主に「黒ガス(トゲクロザコエビ)」。一方で、立派なサイズの「白ガス(クロザコエビ)」は一目置かれる存在。“クロ”ザコエビなのに “白”ガス?というツッコミはこの際置いておきましょう。ちょっとお高めの寿司屋や割烹に足を運ぶと、ご主人が “ドヤ顔”で「今日はいい白ガスが入っていますよ」と出してくださることも。 おすすめは、なんといってもお刺身です。殻を剥くと、意外なほど白く艶やかな身が現れます。一口食べれば、ねっとりと舌に絡みつく甘みに驚くはず。


石川県水産総合センターなどの分析データによると、エビの甘味成分であるアミノ酸「グリシン」の含有量は、甘エビ(ホッコクアカエビ)が100gあたり約1,200mgなのに対し、ガスエビは約1,800mgという結果も出ているんです。数値上でも1.5倍近い甘さを誇る、驚くべきポテンシャルの持ち主。実力派なのです。

見た目どおりのねっとり感で、濃厚な甘味が舌に絡みつく。

ただ何度も言うように、このガスエビは「アシが早い」。水揚げから時間が経つと頭の部分が黒く変色してしまい、見た目はさらに不格好に……。でも、この黒ずみはエビ自身の酵素によるもので、身の甘みが最高潮に達した「食べ頃」と重なる時期でもあるんです。


多少見た目が悪くなっても、中身の濃厚さは健在。むしろ「このくらいの方が甘みが乗って好き」という通なコメントもちらほら。通常の流通にのせるのはなかなか難しいガスエビの濃厚な甘さを楽しめるのは、まさに産地に住む私たちの特権かもしれません。あ、そうそう。その特権を知り尽くす金沢人は、刺身の際に取り除いた頭も捨てません。片栗粉をまぶしてカリッと揚げ、濃厚なミソが溢れ出す極上の唐揚げとして味わうんです。

お店によっては、刺身を頼むと頭の唐揚げが一緒に出てくる。

一方スーパーの鮮魚コーナーで安価に売られている小さなガスエビは「小ガス」と呼ばれています。小指ほどの大きさなので、殻を剥いたら食べるところがほとんどありません。こちらは殻ごと二度揚げして塩をパラパラ。熱々でサクサクの食感の後に、濃厚なミソの香りが追いかけてきます。これがもう、ビールや日本酒に合わないはずがありません。


解禁日に450万円の値がついた加能がに「輝」のような華々しさはありませんが、食べれば誰もが笑顔になる、家庭で受け継がれてきた食の営みがガスエビには詰まっています。
蟹漁が終わり、底引き網の主役がバトンタッチされた今の季節。魚売り場で茶色い殻の彼らと目が合うたび、「石川の各蔵から届く日本酒『春の初しぼり』を買って、今夜はガス♫」と、食いしん坊の心は躍るのです。

ビール、ビール♫